MEGADETH『SO FAR, SO GOOD... SO WHAT!』 review
知性と怒りの火花が散る、1988年のスラッシュ進化論
出会いと、今こそ語りたくなる理由
1988年――あの頃の空気には、張り詰めた冷戦とスラッシュメタルの爆発的エネルギーが共存していた。そんな時代にMEGADETHが放った3rdアルバム『SO FAR, SO GOOD... SO WHAT!』は、ただの攻撃性ではなく、知性と皮肉と内省が入り混じった傑作だった。
ラジカセにCDをセットして、爆音で「Set The World Afire」が流れ出した瞬間の衝撃。あの瞬間の感覚が、今も耳の奥に残っている。若いリスナーにとっては、むしろ今の社会にリンクするメッセージが新鮮に響くかもしれない。
基本情報:変革の真っただ中で生まれた強烈な一枚
| 項目 / Item | 内容 / Details | |
| リリース日 / Release Date | 1988年1月19日 | |
| ジャンル / Genre | Thrash Metal | |
| レーベル / Label | Capitol Records | |
| 収録曲数 / Number of Tracks | 8(オリジナル) / 12(2004年リマスター盤) | |
| 総再生時間 / Total Runtime | 約34分26秒(オリジナル) |
トラックリスト / Track Listing
| # | 曲名 / Song Title | |
| 1 | Into The Lungs Of Hell | |
| 2 | Set The World Afire | |
| 3 | Anarchy In The U.K. | |
| 4 | Mary Jane | |
| 5 | 502 | |
| 6 | In My Darkest Hour | |
| 7 | Liar | |
| 8 | Hook In Mouth |
※2004年リマスター盤には以下のボーナストラックを追加収録:
- Into The Lungs Of Hell (Paul Lani Mix)
- Set The World Afire (Paul Lani Mix)
- Mary Jane (Paul Lani Mix)
- In My Darkest Hour (Paul Lani Mix)
参加メンバーと制作陣
| 名前 / Name | 担当楽器・役割 / Instrument & Role | |
| Dave Mustaine | Guitars, Lead Vocals, Acoustic Guitar | |
| David Ellefson | Bass, Backing Vocals | |
| Jeff Young | Guitars, Acoustic Guitar | |
| Chuck Behler | Drums, Percussion |
追加ミュージシャン / Additional Musicians
| 名前 / Name | 担当楽器・役割 / Instrument & Role | |
| Steve Jones (Sex Pistols) | Guitar Solo on "Anarchy in the U.K." (2nd solo at 1:40) |
制作背景とリマスター情報
- プロデューサー:Paul Lani(途中解任)、最終ミックス:Michael Wagener
- 2004年リマスターはDave Mustaine自身が監修。未発表ミックスを含む音質改善盤
- 再発:2004年、2013年にSHM-CDで再リリース
- 商業成績:Billboard 200で28位、RIAAよりプラチナ認定
音の進化と再評価:荒さの中に宿る鋭さ
この作品の最大の魅力は、その“未完成の完成度”。前作よりシャープになったギター、タイトなドラム、切れ味の増したボーカル。プロダクション的には荒削りな部分もあるが、その"生々しさ"が80年代末という時代をよく映している。
2004年リマスターでは、オリジナルの激情を保ちつつもミックスの輪郭がはっきりし、楽曲ごとのディテールが浮き彫りになった。Paul Laniの幻のミックスも含まれ、音の裏側に迫れる仕上がりだ。
前作『PEACE SELLS...』との比較:より深く、より鋭く
1986年の『Peace Sells... But Who's Buying?』が社会への怒りをむき出しにした作品だったとすれば、『So Far〜』はその怒りを理性的に研ぎ澄まし、音の彫刻として昇華したアルバムだ。
音質は明確に進化し、ギターの構築美やリズムの精度が高まっている。「In My Darkest Hour」には、Mustaineの内面に迫るリリックが込められ、前作ではあまり見られなかった感情の深層が描かれている。
また、メンバーチェンジを経たことでバンドとしての化学反応も変化し、新たなフェーズへの助走となった点も見逃せない。
聴くべき理由:それは“自分の心”に刺さる音だから
- 「Set The World Afire」:Mustaine初期デモが原型。リフの憎悪と核戦争の恐怖を刻んだ1曲
- 「Mary Jane」:呪術的な世界観が展開される異色作。独特のコード進行がクセになる
- 「Hook in Mouth」:言論統制へのプロテスト・ソング。今だからこそ響くリリック
Mustaineが叫んでいたのは単なる怒りではない。抑圧に対する知的な反抗であり、自身の過去とも向き合う“音の内省”だったのだ。
まとめ:今、このアルバムを手に取る意味
MEGADETHが放ったこの問題作には、ヒリつくようなリアルがある。完成されていないようで、だからこそ強く残る。これは怒りの記録であり、再生の序章だった。次作『Rust In Peace』へと繋がる胎動が、確かにこの中で鳴っていた。

