【徹底レビュー】ANTHRAX『Persistence of Time』30周年盤が語る“時代を超える音”とは
1990年、スラッシュメタルの進化と深化を刻んだ金字塔──それがANTHRAX(アンスラックス)の『Persistence of Time』。
社会への問いかけ、人間の内面に迫るテーマ、そして音楽的挑戦が詰まったこのアルバムは、今も私たちの心を揺さぶり続けている。
そして、2020年には30周年記念デラックス盤が登場。オリジナル世代には再発見の旅を、若い世代には名盤との出会いを届ける一枚だ。
作品との再会──なぜ今『Persistence of Time』なのか?
90年代初頭。冷戦終結に揺れる社会情勢の中、ANTHRAXは従来の陽気なイメージを脱ぎ捨て、より内省的でダークな音世界へと踏み込んだ。
筆者も当時このアルバムに衝撃を受け、ジョーイ・ベラドナの伸びやかな歌声と、社会や人間の不条理を切り取る歌詞に感情を重ねていたことを今も鮮明に覚えている。
30年の時を経た今、時代背景やバンドの置かれた状況がより鮮明に理解できる。『Persistence of Time』は、アンスラックスがアーティストとして成熟していく過程を克明に刻んだ、まぎれもない金字塔だ。
アルバム基本情報
項目 | 内容 |
リリース日 | 1990年8月21日 |
ジャンル | スラッシュメタル |
レーベル | Megaforce Worldwide / Island Records |
収録曲数 | 11曲(オリジナル盤) |
総再生時間 | 58分40秒 |
トラックリスト
No. | 曲名 | 時間 |
1 | Time | 6:55 |
2 | Blood | 7:13 |
3 | Keep It in the Family | 7:08 |
4 | In My World | 6:25 |
5 | Gridlock | 5:17 |
6 | Intro to Reality | 3:23 |
7 | Belly of the Beast | 4:47 |
8 | Got the Time (Joe Jackson cover) | 2:44 |
9 | H8 Red | 5:04 |
10 | One Man Stands | 5:38 |
11 | Discharge | 5:12 |
メンバー構成
名前 | パート | 特徴 |
Joey Belladonna | Vocal(ヴォーカル) | メロディアスな歌声が緊張感を演出 |
Scott Ian | Rhythm Guitar(リズムギター) | バンドの核。骨太のリフで牽引 |
Dan Spitz | Lead Guitar(リードギター) | テクニカルなソロで音の厚みを形成 |
Frank Bello | Bass(ベース) | シャープな低音でグルーヴを支える |
Charlie Benante | Drums(ドラムス) | 作曲にも関与。繊細かつ攻撃的なドラムワークが魅力 |
30周年記念盤の魅力
音質
最新リマスタリングにより、低音の迫力と楽器の分離感が大幅向上。細部の音がまるで霧が晴れたように鮮明に。
アレンジ
原盤の持つアグレッションを保ちながら、各パートのバランス最適化。ツインギターとドラムのニュアンスが際立つ。
パッケージ
2CD+DVDエディション:
- Disc 1:リマスター+ボーナストラック(ライブ、デモ音源、B面曲)
- Disc 2:「Charlie’s Stash」=創作過程を収めた貴重音源集
- DVD:約40分の舞台裏映像。1991年Iron Maidenツアーに密着
4LPアナログ盤:
- 初期構想の「溶ける時計」カバーアートを再現
- 高音質プレスにより、アナログならではの重厚感と温かみ
時代背景と共鳴する社会性
『Persistence of Time』は、暴力・人種差別・環境問題・時間の不可逆性など社会的テーマを真正面から描いた作品。
現代のフェイクニュース、格差社会、紛争にも通じるメッセージが込められており、「哲学書」と呼びたくなるほどの深さがある。
筆者が推す3曲とその理由
- Time:冒頭の“時計音”がテーマそのもの。壮大なイントロが内省的な旅を誘う。
- In My World:ジョーイのメロディアスな歌声が心に刺さる。社会への漠然とした不満を代弁。
- Got the Time:Joe Jacksonの原曲をスラッシュアレンジで再構築。ベラドナのボーカル力が炸裂。
まとめ──今だからこそ、この名盤と向き合う
30周年記念盤は、懐かしさだけではなく“音楽的探求”と“社会との対峙”を再認識する機会だ。