聖飢魔Ⅱの『有害』は、80年代HR/HMを語るうえで欠かせない一枚です。
華やかな成功の影で静かに燻り続けていた“もうひとつの真実”が、
この作品にはそっと封じ込められているように思えます。
表舞台で脚光を浴びながらも、その裏側では確かな葛藤と情熱が渦を巻いていた──
だからこそ、今あらためて耳を傾けたくなるのでしょう。
私がこの教典に強く惹かれたのは、紅白歌合戦への出演や『WORST』の大ヒットで
“国民的存在”となった悪魔たちの姿に、どこか言いようのないざわめきを覚えたからでした。
当時はただ「勢いのあるバンド」として受け取っていたはずなのに、
聴き返してみると、その奥にはもっと繊細で、もっと個人的な感情が流れているように感じられて──
「これは、聖飢魔Ⅱという表現集団が“自分たちの核”を取り戻そうとした瞬間なんだ」
と、胸の奥が静かに熱を帯びたのを覚えています。
骨太でありながら、ふと哀愁が滲むサウンド。
メディア露出の華やかさとは対照的に、スタジオの奥で研ぎ澄まされていった牙の気配。
そして、商業的成功のただ中にあったからこそ生まれた“生々しい輝き”。
『有害』は、そんな複雑な時代の空気をそのまま閉じ込めた作品だと感じています。
この記事では、
音像・歌詞・文化背景・再評価の価値
この4つの視点から『有害』をそっと紐解きながら、
リアルタイムでこの教典に触れたときの“あの感覚”も添えてお届けします。
作品データと基本情報
『有害』という教典をもう少し丁寧に眺めてみると、
当時の空気やバンドの置かれていた状況が、静かに輪郭を帯びて見えてきます。
まずは、この作品を形づくる基本情報から触れていきましょう。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作品タイトル | 『有害』 |
| アーティスト名 | 聖飢魔Ⅱ |
| リリース日 | 1990年9月9日(初回盤)/9月21日(通常盤) |
| ジャンル | HR/HM(ハードロック/ヘヴィメタル) |
| レーベル | CBS/SONY |
| 収録曲数 | 10曲 |
| 総再生時間 | 約48分 |
| 録音場所 | 都内スタジオ(詳細非公開) |
| プロデューサー | 聖飢魔Ⅱ/松崎雄一(準構成員) |
華やかな成功のただ中で生まれた作品でありながら、
どこか“内省”の影を落とすこの教典。
その背景を知ることで、音の奥に潜む温度や息遣いが、
より鮮明に立ち上がってくるはずです。
作品概要──『有害』が放つ核心
『有害』は、聖飢魔Ⅱが“お茶の間の人気者”として最も強い光を浴びていた時期に発布された、第七大教典です。
前年の紅白歌合戦への出演、そしてベスト盤『WORST』の大ヒット──
あの頃の日本では、悪魔たちがまるで国民的キャラクターのように扱われていました。
けれど、その華やかさの裏側で、バンド自身はどこか落ち着かない影を抱えていたように思います。
前作『THE OUTER MISSION』で見せた芸術性や、バラード路線の成功は確かな成果でありながら、
同時に“軟弱化”という声も聞こえてきた時代でした。
その反動として、彼らはもう一度、自分たちの核に触れようとした──
その結果として生まれたのが、この『有害』なのだと感じています。
初めてこの教典を聴いたとき、胸の奥で小さく地鳴りがしたのを覚えています。
それまでの壮大なファンタジー世界から一転し、
人間社会の闇や心理へと踏み込むような、生々しい気配。
80年代HR/HMの流れの中で見ても、これは明らかに“転換点”と呼べる作品でした。
華やかな成功のただ中で、静かに牙を研ぎ直すような気配──
『有害』には、そんな時代の空気がそっと封じ込められているのだと思います。
音像・演奏──時代を超えて輝くサウンドの深み
『有害』の音像に耳を澄ませると、まず感じるのは“密度”の高さです。
ひとつひとつの音が重なり合いながらも濁らず、
湿った夜気の中でゆっくりと立ち上る蒸気のように、
じわりと体の内側へ染み込んでくる質感があります。
ギターは鋭さの中に、日本的な情緒をわずかに残したニュアンスを帯び、
骨太なリフは、当時のバラード路線への反動を静かに示すように響いてくる。
その“反動”は決して攻撃一辺倒ではなく、
むしろ自分たちの核を確かめるような意志として伝わってくるのが、この作品の魅力だと思います。
ギター(SGT.ルーク篁III世参謀/エース清水長官)
──ルーク参謀の鋭いピッキングが空気を切り裂く瞬間と、
エース長官の哀愁を帯びたフレーズがふっと差し込む瞬間。
この対比が『有害』の音像を決定づけている。ヴォーカル(デーモン閣下)
──演劇的な表現の奥に、生身の感情がふっと滲む。
特に中低域の“語り”に近い部分に、作品の温度が宿っている。リズム隊(ゼノン和尚/ライデン殿下)
──ライデン殿下の手数の多いドラミングが曲の呼吸と自然に重なり、
ゼノン和尚の低音がその複雑さを静かに支えている。キーボード(松崎雄一)
──混沌とした要素を美しく束ね、音像に奥行きを与える“交通整理役”。
過剰さを整理しながら、作品全体の統一感を生み出している。
ミックスは90年代初頭らしい空気感を残しつつ、
今聴いても驚くほど現代的な音圧を感じさせる仕上がりです。
“音の洪水”という言葉が自然と浮かぶほど、
一曲ごとに濃密なエネルギーが封じ込められている──
そんな印象を抱かせるサウンドだと思います。
歌詞テーマ──情緒と物語が描く世界観
『有害』の歌詞に耳を傾けていると、
これまでの宇宙や神話といった大きな物語から、
視線を落として“人間の内側”へと潜っていくような感覚があります。
そこに描かれているのは、
- 欲望
- 偽善
- 社会の歪み
- 心の闇
といった、誰の心にも静かに沈んでいる感情たち。
それらを悪魔という第三者の視点から照らし出すことで、
聴き手は自然と“自分の中の毒”に触れてしまう──
そんな引力を持った歌詞世界だと感じます。
象徴曲「嵐の予感」では、
個人的な想いが、いつの間にか普遍的なメッセージへと広がっていくような、
温度の変化がそっと漂っています。
心の奥で渦巻く感情を、触れすぎない距離感で描き出していて、
聴くたびに胸の奥がわずかに揺れる、そんな余韻を残す曲です。
文化背景・時代性──1990年の風と初期衝動
1990年という年を思い返すと、
バブル景気のきらびやかさがまだ街を包んでいながら、
その奥には落ち着かない影が揺れていたように感じます。
社会全体が浮き立つ一方で、
“この先どうなるのだろう”という小さな不安が、
胸の奥に静かに沈んでいた時代でした。
MTV文化が広がり、音楽産業はかつてない勢いを見せ、
HR/HMもようやく市民権を得ていた頃。
そんな華やかな流れの中で、聖飢魔Ⅱはあえて立ち止まり、
問いかけるようにこの作品を放ったのだと思います。
「本当に有害なのは誰なのか」
その言葉は、派手な時代の光に照らされながらも、
どこか冷静に世界を見つめる視線のように響いてきました。
リアルタイムでこの教典を聴いたとき、
胸の奥で小さなざわめきが生まれたのを覚えています。
華やかさの裏側に潜む影を、
悪魔たちは見逃さなかった──
そんな確信めいた気配が、音の隙間からふっと立ち上ってくるのです。
再評価のポイント──2025年に聴く意味
『有害』をいま聴き返してみると、
当時とはまた違った角度から、この作品の魅力が静かに浮かび上がってきます。
- リマスター盤では音の分離が向上し、ライデン湯沢殿下の細やかな手数が、より自然な呼吸として耳に届く。
- ジャケットに描かれた“有害マーク”は、時代を越えて独特の存在感を放ち続けている。
- 初回限定の「有害缶」(ビニール製鉄アレイ付)は、当時の遊び心と過剰さがそのまま形になった象徴的なアイテム。
- いま手に入れるなら、音質を楽しみたい人にはリマスター盤、資料性を重視するならオリジナル盤が魅力的に映る。
2025年の耳で聴く『有害』は、
「過剰さこそが美学だった時代」
という言葉を思い出させてくれます。
音の隙間に宿る熱量や、作品全体に漂う“あの頃の空気”が、
静かに、しかし確かな輪郭を持って蘇ってくるのです。
✨ 全曲解説──『有害』を彩る魂のトラックリスト
『有害』の曲たちをひとつずつ辿っていくと、
当時の聖飢魔Ⅱが抱えていた葛藤や、静かに滲む知性が、
薄い膜の向こう側からそっと手を伸ばしてくるように感じられます。
ここでは、その余韻を壊さないように寄り添いながら、全曲を見つめていきます。
【SIDE A:自己規定と様式美の完成】
1. 有害ロック
アルバムの扉を開くこの曲には、
“お茶の間の人気者”となった自分たちを、
もう一度見つめ直そうとする静かな意志が宿っています。
10枚目の小教典として発布された背景もあり、
「有害」という言葉をあえて掲げ直す姿勢が、どこか凛としている。
ライデン湯沢殿下のドラムは手数が多いのに暴れず、
低い重心で曲全体を支える。
閣下の語り口も挑発ではなく、“宣言”に近い落ち着いた強さを帯びています。
2. ファラオのように
支配と従属というテーマを、淡々と、しかし深く掘り下げるミドル・チューン。
小教典版の“肉体性”が、大教典版ではより精神的な方向へと変化し、
「支配される側が自ら従属を望む」という構造が浮かび上がる。
中東的な旋律を帯びたギターは、不穏というより、
出口の見えない迷宮を歩くような感覚を呼び起こします。
3. シンデレラ外伝
冷たく研ぎ澄まされた疾走曲。
ライデン殿下が「全員のパルスが合った」と語ったほど、
バンドがひとつの生命体のように動いている瞬間がある。
80年代メタルの“熱さ”とは異なる、
どこか機械的で、それでも美しい精度。
成功の裏側に潜む残酷さを描いた歌詞と相まって、
曲全体がひんやりとした緊張感を帯びています。
4. ピンクの恐竜
アルバムの中でひときわ異質な存在。
ポップな手触りの奥に、悪趣味な皮肉が潜んでいる。
小教典版とは別テイクで、こちらのほうがエッジが立っている印象。
“流行と正しさのグロテスクな融合体”という解釈は、
この曲の持つ不穏な笑顔をよく言い当てています。
5. ROSA
前半を静かに締めくくる叙情曲。
エース清水長官のメロディには、乾いた哀しみが漂う。
閣下のヴォーカルも感情を爆発させず、
湿り気を帯びたまま淡々と進んでいく。
その抑制が、胸の奥に残る“欠落感”を強めています。
【SIDE B:内面への侵攻と予言】
6. 精神の黒幕 〜LIBIDO〜
閣下とエース清水のツイン・ボーカルが、
まるで内面の対話のように響き合う一曲。
“敵は外ではなく、自分の内側にある”というテーマが、
粘着質なリフと執拗な展開によってじわじわ迫ってくる。
アルバム全体の精神的ピークのひとつと言えるでしょう。
7. 嵐の予感
時代が追いついてしまった曲。
もともとはメンバーへの私的なメッセージとして書かれたものが、
その抽象性ゆえに、後年“警告書”のように響くようになった。
2020年代の国際情勢の中で再評価されたのも、
この曲が持つ普遍性があったからこそ。
静かな嵐が胸の奥でざわめくような余韻を残します。
8. THUNDER STORM
北尾光司氏の入場曲をアレンジした一曲。
肉体性のあるリフとリズムが、
思想の海に沈んでいたアルバム後半に、
一度“地上の感覚”を取り戻させてくれる。
前曲からメロディが繋がる構成も自然で、
教典全体の流れの中にしっかり溶け込んでいます。
9. 犬のようになめろ
タイトルの過激さとは裏腹に、演奏は驚くほど冷静。
怒りをぶつけるのではなく、
支配と服従の関係を淡々と描くことで、
聴き手の中に潜む“従属の欲求”を浮かび上がらせる。
ルーク篁参謀の視点が光る一曲で、
このアルバムの“醒めた知性”を象徴しているように思えます。
10. ヒロイン・シンドローム
救いのない幕切れ。
自己陶酔や被害者意識といった、
人間の弱さを静かに突きつけるラストナンバー。
華やかなエンディングを拒むように、
不快な余韻を残して終わる構成は、
聖飢魔Ⅱが“思考を刺激するロックバンド”へと変貌した証のようです。
総括:この教典が残したもの
『有害』を聴き終えたあとに残るのは、
派手なカタルシスではなく、
胸の奥に沈む小さな棘のような感覚。
- テクニカルな演奏の精度
- 精神的な冷たさ
- 時代の空気を映し出す知性
それらが奇跡的なバランスで同居し、
30年以上経った今でも、
この教典は静かに牙を光らせています。
同調圧力が強まる現代において、
“有害であること”の意味は、
むしろ以前より鮮明に響いてくるのかもしれません。
ここが熱い!筆者が推す“本作の刺さるポイント”
『有害』を聴き返すたびに、胸の奥でふっと灯るものがあります。
それは派手な高揚感ではなく、
静かに沁みてくるような、あの頃の空気の手触りです。
- 「嵐の予感」に漂う、言葉にしづらい情緒の深さ
- 「有害ロック」が放つ、時代への小さな挑発のような熱
- アルバム全体を包む、“過渡期ならではのざわめき”
こうした要素が重なり合って、
この教典は今もなお、そっと心に触れてくるのだと思います。
当時、レコード店でこのジャケットを手に取ったときの、
ざらりとした紙の質感。
深夜のラジオから突然流れてきた「有害ロック」のイントロに、
思わず息を呑んだあの瞬間。
そんな記憶が、今でもふとした拍子に蘇ることがあります。
あなたがこのアルバムに触れたとき、
どの曲が心に残ったのか──
その思い出も、いつか聞かせてください。
関連レビューと次のリスニングへの誘い
『有害』という教典を聴き終えたあと、
もう少しだけ当時の空気に触れてみたくなる瞬間があります。
そんなときに寄り道するのにちょうどいい作品たちを、
そっと並べておきます。
聖飢魔Ⅱ『THE OUTER MISSION』
https://garaosyou.hatenablog.com/entry/hr-hm/album-review/review/seikimaII-the-outer-mission ──『有害』へ向かう前夜の、研ぎ澄まされた芸術性。聖飢魔Ⅱ『BIG TIME CHANGES』
https://garaosyou.hatenablog.com/entry/hr-hm/review/seikima%E2%85%A1-big_time_changes_album_review
──バンドの“変化”が静かに動き始めた、もうひとつの分岐点。LOUDNESS『ON THE PROWL』
https://garaosyou.hatenablog.com/entry/2024/04/10/LOUDNESS_-_ON_THE_PROWL ──90年代へ向かう日本メタルの、揺れ動く過渡期の息遣い。VOW WOW『MOUNTAIN TOP』
https://garaosyou.hatenablog.com/entry/20080504/1209866652 ──英国で磨かれた気品と熱量が同居する、成熟の一枚。ANTHEM『NO SMOKE WITHOUT FIRE』
https://garaosyou.hatenablog.com/entry/20080504/1209883738 ──時代の波に飲まれず、真っ直ぐに燃え続けた日本HR/HMの矜持。
どれも、あの頃の空気を思い出させてくれる作品ばかりです。
気が向いたときに、そっと扉を開いてみてください。
また次回、80’sメタルと共に語り合いましょう。
Personnel(参加ミュージシャン)
『有害』という教典を形づくったのは、
過渡期の聖飢魔Ⅱが持っていた緊張感と、
静かに研ぎ澄まされた知性をそのまま音に変えられる、
そんな稀有なメンバーたちでした。
Vo:デーモン小暮閣下
──演劇性と冷静さが同居する声。物語の“温度”を自在に操る存在。Gt:SGT.ルーク篁III世参謀
──攻撃的なリフと緻密な速弾きで、アルバムの“硬質な核”を築くギタリスト。Gt:エース清水長官
──「ROSA」に象徴される、都会的で哀愁を帯びたメロディの守護者。Ba:ゼノン石川和尚
──複雑なアンサンブルの中でも揺らがない、静かな重心を提供する低音。Dr:ライデン湯沢殿下
──手数の多さを感じさせないほど自然に呼吸する、精密機械のようなドラミング。Key(準構成員):松崎雄一
──音像の“交通整理役”。混沌とした要素を美しく束ね、作品に奥行きを与えるアレンジ。
それぞれの個性がぶつかり合うのではなく、
ひとつの思想へ向かって静かに収束していく──
『有害』の音には、そんな不思議な調和が宿っているように感じられます。
総括
以下は、あなたの文体と今回のレビュー全体の流れに合わせて
“自然に着地する総括”として書き下ろしたものです。
総括──『有害』が今も牙を光らせる理由
『有害』という教典を聴き終えたあとに残るのは、
派手なカタルシスではなく、
胸の奥にそっと沈む小さな棘のような感覚です。
華やかな成功のただ中で、
自分たちの核をもう一度確かめようとした聖飢魔Ⅱ。
その静かな意志が、音像・歌詞・構成のすべてに滲み、
作品全体に独特の緊張感を与えています。
- テクニカルでありながら、どこか醒めた知性
- 時代の空気を映し出す鋭い視線
- そして、悪魔という装置を通して描かれる“人間の内側”
これらが重なり合うことで、
『有害』は単なるHR/HM作品を超え、
“思考を促すアルバム” へと昇華しているのだと思います。
30年以上が経った今でも、
この教典が静かに牙を光らせ続けているのは、
私たちがいま生きている世界にも、
同じざわめきが確かに流れているからかもしれません。
“有害であること”の意味は、
むしろ現代のほうが鮮明に響いてくる。
そんな作品です。
作品を聴く
レビューの余韻のまま、作品そのものに触れてみてください。
さらに深く楽しむために
もしこの作品が、あなたの記憶にも静かに触れたなら──その余韻を誰かと分かち合ってみてください。
フィジカルで手元に置きたい方へ、主要ショップのリンクもまとめています。
▶ このレビューの詳細情報
記事情報